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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
偶然な配列だったろうが、宗盛の書簡のすぐ側に、高野金剛峯寺蔵の義経の筆蹟が陳列されてあった。相対して、彼とこれとの差が、じつによく分かる。二人の違い方はまた、時代とその使命の相違でもあろうか。義経の書は痩肉な草体で、どこかに気負いがあり、若々しい颯爽な気が躍っている。――これを書いたある日の義経は、彼もまた、得意ではあったのだろうと、ほほ笑まれた。
前々回の腰越状の一節は、呉文炳氏「腰越考」に拠るところが多かった。記して感謝しておく。また、腰越状その物の文章も、現代人に読み易くするため、全文を半分くらいにちぢめ、原文の悲調な漢文体のリズムも損わないように私が勝手な筆を加味してある。後の誤りとならないようあえてこのことも誌しておく。
片瀬、腰越といえば夏のカーニバルや海水浴で今は聞こえているが、義経には宿命深い土地だった。凱旋後の彼はここで頼朝から足止めをくい、数年後、奥州で最期をとげると、死してはまた、その首を美酒に漬けられて腰越へ送られて来、梶原らの首実検に供されるのである。一個の人の生涯を、その生涯を閉じたあとで振返ると、古い考え方だが、何か約束事みたいなものが感じられる。