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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
なぜおめおめ都を立ち退いたのか。泣きっ面に蜂、そんな退嬰的だから、難船の憂き目にも会ったりする。――あげくに、きのうの部下だった木っ葉武者に、追捕を懸けられ、なんで山野を逃げ隠れしてばかり歩いているのか。「……まったく、焦れッたいねえ。あたしが義経なら、頼朝なんか、やっつけてやるよ。一ノ谷、屋島で勝った源九郎義経でしょうが。やる気なら、頼朝なんぞ、なんでもあれやアしないやね。なんとか、そう書けないもンかしら、吉川さん」とは、人間国宝の篠原治さんの弁である。これ程でなくとも、これに近い慨嘆を聞かされるも近来一再ではない。だが、いくら人間国宝が歯ぎしりしてくれても、歴史はそう流れてしまったのだから、どうにもならない。
二の句にはすぐ歴史だが、じつのところは、その史実性にも、ずいぶん、あいまいがなくはない。義経亡命中の二ヵ年など、全然暗中摸索である。――かれの神出鬼没ぶりばかりでなく、院宣なる物や、法皇の本心や、奈良叡山のうごきや、何喰わぬ顔しつつ常に何かを策する公卿輩まで、すべて複雑怪奇を孕んでいた。ただ一人、義経だけが、初志をかえずにいただけだと、私は思う。