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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
それに彼の自筆になる神護寺縁起は、彼の自叙伝とも見られるものだし、「吾妻鏡」などにも、再々彼の記事は出てくるので、史料の上では、書くのにらくな方である。
ちょうど、今春から、週刊誌上では、伊豆の頼朝と並んでその文覚を書きつつあるし、この陽春には、朝日新聞大阪本社の主催で、“新・平家物語展”をやる意向があるとも聞いているので、もし実現されるようだったら、自分の家蔵としている横物の文覚の手紙なども出品して、読者諸子の一覧を得ようかなどと思っている。
その文覚の手紙は、彼が導師となった灌頂の御式の後、さる女院へ送った書面で、文覚らしい無遠慮ないい方が随所にみえ、当時の彼を知るにまたなくおもしろいものだと芸術大学の脇本氏なども見ていっていた。
もとより私の小説史料にはならないが、墨気とことばを通して、こういう生ける文覚に対してみるのも、無益ではない。何がな作家の幻想をしきりに駆りたてられ、私の雑然たる書斎にも、そこはかとなく、当時の社会的な匂いや、人間像の群影が、机辺を往来する。そして仕事疲れのうたた寝の瞼にも、何かが見えてくるのであった。
山村の書斎は、四月ごろまで、文字どおりな冬籠りである。