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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
寸時間でも、駈けつける気もちではいる。行けばきっと、郷土史家や市史編纂に参与した古老たちから、有益なことも聞けそうに思われるからでもある。
三月にあった宮島の清盛祭にも、行けなかった。どうも、清盛祭とぼくとは、今のところ、あちこちで、かけちがって、うまくお目にかかれない。
しかし、一昨日は、叡山にゆき、三千院をたずね、大原の寂光院までたどって、清盛のむすめであり、また、安徳天皇の御母であった建礼門院の跡に佇んで、寿永のむかしを暫し偲んで帰った。
与謝野晶子女史が、ここを訪うたときの歌がある。
ほととぎす治承寿永のおん国母
三十にして経読ます寺
花曇りの今にも降り出しそうな昼。ほの暗い国宝の御堂の床に立って、建礼門院平ノ徳子の座像をさし覗いていると、案内してくれた院主の尼君が、そばから蝋燭の灯をかかげて、七百七十年前の薄命なる一佳人の白い顔を、眼ばたきし給うかとばかり、近々と、灯ゆらぎのうちに見せてくれた。
単に、机の上で描いてみる作家の幻想以上に、何か、身近なものが、肌に迫ってくる。似ているか、否かなどは、問題ではない。あの時代のままな四囲の山と水と、そしてこの建築との中にいれば、治承、寿永の世の一と隅を感じとるには充分である。