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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
ガラス張りの貴賓館らしい下に、翁の一邸があり、そこの縁先をあけ、古色蒼然たる例の山高帽に、黒マント、顔半分、襟巻きに埋めて、松葉杖をつきながら、西洋アヤツリ人形みたいに、本年九十二歳のおじいさん出座。
一同は、庭先に並べられた補助椅子に、一だん低く腰かける装置となっていて、主客あべこべだから、この御木本島では、おじいさんはたしかに国王様である。「よう、来たナ」といった調子。鬼面人を脅す悪戯っぽい趣味がおありらしい。「まだ生きるよ、死んだらこんどは、神様になって弗のおサイ銭を取ってやる」と、死後の欲は神様志願らしい。「わしは九十八まで生きる。君も長生きするさ」と励ましてくれて「お通さんを書いたような男は、どんなかと思ったら、案外、まずい男だな」と、ぼくの手を握っていう。そこで、ぼく。「おじいさんも、そのノリ刷毛みたいな眉毛を取ると、余りいい男じゃありませんな」と戯れると、ウフフフと大笑して、やにわにマントの袖を刎ね上げ、お孫嬢から“御木本幸吉伝”二、三冊を取って、腰なる矢立の筆を抜き、それにサインした。そして、「君に、やる。そっちの画描きにも一冊。