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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
この犬は、猪を取るか」「まだ、わからぬ」「肉をくれてみれば分かるさ。肉を食う犬は猪を取る。猪を取れんような犬は、紀州犬じゃない」といったような会話。
杉本画伯はスケッチに他念がない。嘉治さんとぼくは、その人たちの専門家的知識に傾聴する。まず、純紀州犬は和歌山県にも近来何匹もいなくなったという話。鑑識法としては、脚の爪に、もう一つ、雑種にはない水掻きみたいな爪があるのが良く、顔は両眼の眉間せまく、狼の精気と、狸のような顎をもち、尾は高く巻いて、桃いろの肛門が太陽へ仰向いているようなのを良種とするなど、この道の大家ばかりが揃ってしまったので、話はつきない。
そこへ、お婆さんの娘が、また一匹、白い仔犬を、自転車に乗っけて分家から持ってきた。マニアたちは陽が暮れるのも忘れて、またその品評審査に熱中しだした。いったい新宮には、いつ着くのかと、気をもんでいると、
「じゃあ、婆さん、また帰りによるからな」
やっと、自動車は、走り出してくれた。やれやれである。まもなく、木本。
町を半巡する。かくべつ眼につく物もない。七里御浜をびゅんびゅん快走しつづける。紀南第一のドライヴウェーといっては違うだろうか。