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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
昨夕、杉本画伯が注意していたようだが、きょうもまだ直していない。もっとも、修理するとなったら、ドアから車体全体、直さなければなるまい。それでも、なりふり構わず、健康と快足を誇っているところ、愉快である。ジープは世界の愛嬌者だ。あの素朴にはアメリカ科学の童心がある。
途中のせまい村道で、こっちを先にしてもらう。
鬼無、国府あたりから、ようやく、山近く狭ばみ合ってくる。綾川の南の丘を指さして「鼓ヶ岡が見えます」と、川六の主人がいう。碑らしいものが冬木立の中腹に望まれる。そこへ行っても、丸木ノ御所の址は、今では何もないという。
丸木ノ御所とは、讃岐に流されて、この地で崩ぜられた崇徳上皇が、八年間の配所の跡である。
崇徳の御生涯四十六年の歴史ほど、傷ましいものはない。この君の末路のさまは、日本皇室史に一抹の陰影を長く曳いている。前後のいきさつは、べつに「新・平家物語」の中で、書いたから、ここに重筆は避けるが、ひとり皇室だけでなく、われらにとっても、決して名誉ある歴史の跡ではない。人間の貪欲、人間の愚、人間の迷妄、そして権力や栄花の毒が、いかに人間をして人間を虐ましめたかという生々しい記録をなす保元の乱の主役であり、犠牲者であったお人が、すなわち、崇徳上皇なのである。