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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
山上の廻遊道路は、ぼくらにさえ、歩くによい。林間に、もう夕雲を見初める。四国連山や西海岸の線は赤々と冬靄のうちだった。みな黙りっ子になる。大股くらべに、とっとと歩く。マ氏と嘉治さんには、たれもかなわない。
屋島寺を訪う。
住職は早くから待っていてくれたらしい。方丈へと通される。だが、室内はもうほの暗いし、寒さといったら、歯の根がワクワクいう。みな外套のままうずくまる。そして住職が「お火を、お茶を」としきりに話しこむ腰を折って、ともかく先に宝物殿の御案内をと、お願いする。
こんにゃく色の障子、冷たい畳の大伽藍を、一間一間、導かれてゆく。光起の屋島合戦屏風も、切箔のくすんだ光と、紺泥の海と、那須余一の顔の胡粉などが、ほのかに見えるだけである。
その代りに、重盛の燈籠とか、景清の観音像とか、太刀とか、檜扇とか、緋おどし、卯の花のよろいとか、それらの物が、一堂の夕闇をモザイクして、妖しいまで古色にみちた息吹きを漂わせている。紙の障子が、すき洩る現代の空気も音響も一切遮断しているのだ。
もし花おぼろな春の夜でも、ここの黒い柱によりかかって、屋島の浦曲の波音を耳に、うとりうとり居眠りでもしていたら、夢に、平家の人々が語りかけて来るかもしれない。