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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
だからこそ、一門が都の落去も、福原の焼亡も、一ノ谷、屋島、壇ノ浦の末路も、あわれとも、優しいとも、人間宿業のかなしさとも、何かいい知れない悲曲の響きを、今でも人の胸へ打ってくるのではあるまいか。
弱くも強くも、猛くも優しくも、平家の人たちは、みなそれぞれに高い薫陶をうけていた。自然、人がらの良さがあったと思う。
源氏の人々には、それが乏しい。野性的な生命力を、宗教や文化の苗床に芽ばえさせた功はあるが、大きく見くらべて、人がらは見劣る。殊に、末路が悪い。ぼくのいう悪いというのは、詩にならないことである。
空想は楽しい。自分の生存期間を出て、過去へも、未来へも、自由に翔けてゆける。もし、人間に空想が欠けていたら、地球は地球だけの面積でしかない。
外套の襟を立て、ポケットに両手を突っこみ、談古嶺に佇んでいると、半夜でもこうしてじっとしていられる気がする。
茶店の主人公に、何か声をかけられる。われに返って振りむくと、これはこれはであった。床几の上に硯箱が出ていた。杉本さんが、色紙に絵を描かされている。これはまるで、闇討ちだ。月があるし、色紙は白いから、まあ筆の穂は見えるようなものの、夜の野外で、硯箱が出てくるとは、茶店の談古翁もちと酷い。