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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
山下君の背なかには、ささやかだが、女房子供もいる楽しい家庭図がちゃんと描いてある。
藤原村を行く。
この辺、幕末維新には日光、今市の官軍と、会津勢との間に、ゲリラ戦が行われた所。今は村にも部落にも、パチンコとパーマネントの看板の見えない所はない。
また、中古の奥州街道は、この高原越えだという説もあって、「義経記」にいう“――なめかたヶ原うち通り、狐川うち過ぎて、さげ橋の宿について馬を休め、衣川を渡り、宇都宮大明神をふし拝む”などの一節も思い出される。
川治温泉が近いという。そのころから断崖百尺の下に、鬼怒川渓谷の水色深く、みなおとなしくなって黙りこむ。もう十数年前だが、この危ない崖ぷちに、山藤の花が垂れ下がって酔うばかり匂っていた某年陽春の一日、ぼく、浜本浩、永井龍男、三角寛、それに南島研究家の安藤君、今は亡き田中貢太郎などと、ぶらり、ぶらり、戯れ歩いたことがある。
前夜泊った川治の旅館を立つとき、貢太郎老は、宿から一升ビンを乞いうけ、また、一本の沢庵漬を新聞紙にくるんで懐中していた。そしてここまで来ると、老は「ええ藤の花ぞい、チクと、この辺で一杯やらにゃいかん」