Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
――説明の必要もなく、強いる必要もなく、文化の不朽と、すぐれた人間の生き方とを、黙ってみんなに示している。
学生たちの間を分けて、車へ帰ろうとすると、たれかがぼくの名をささやき始め、ひとりがサイン帳を持って来た。労をいとうつもりはないが、虚名の持主が、虚名と自ら知りながら、人中でサインするのは、どうもテレる。まして英世博士の生家を見たばかりの感慨も消えていない。そこで冗談半分に「あの人、小杉勇君だよ、小杉君に頼めよ」と車へひっこむ。春海さんは、どこへ行っても、由来、小杉勇とまちがえられ、ばあいによると、結構、それで通ることがあるからである。
けれど、旅館の女中さんなどとちがい、学生はよく知っている、そんな手にはのらない。みな、ウサン臭そうに春海さんの鈍々と歩く図ウ体をながめあい、何かコソコソ耳語するのみで、さっぱりサイン帳の襲撃とは出て来なかった。
いったい鬼怒川温泉を出たのは何日だったかしらと疑う。それがけさの七時だ。まだ車を乗りつづけている。滅茶なスケジュールである。――翁島からまた山野を飛ばして、磐梯山の東麓、大寺という山村にたどりついたころ、もう、どっぷり、日いっぱい。