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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
そして京都から義経軍の潜行したいわゆる、鵯越え間道”の径路を、その豊かな郷土史の見地から何くれとなく説明された。
これは後での笑い話だが、川辺氏はもちろんぼくら一行が、有馬を起点とし、丹波境から椅鹿、淡河、藍那などの山岳地を踏破して、義経の進んだ径路どおり鵯越えに出るものと予定していた。そのため、ハイキング支度で来られたそうだし、ぼくも東京を出るときは、そのつもりで、ズックのゴルフ靴など携えては来たのであった。だが今はとてもそれほどな元気もない。「ともかく神戸まで出ようじゃありませんか、その上で」と、ただなんとなく腰を上げた。
宿の御所坊を立ち出るとすぐ川辺氏が「ここから二町ほど上の温泉寺。清涼院といいますがね。そこに、清盛の石塔というのがあります。ちょっと、見てゆきますか」という。
川辺氏について温泉町のだらだら坂を登ってゆく。石造美術に造詣のふかい氏の話には道を忘れるものがある。温泉寺のそれは足利初期の物であり、由来も定かでない由、しかしそこでは、思わぬ拾い物をした。
うす暗い本堂の内陣脇で、一人の中年僧が、お勤めをしていたのだが、ふつうの勤行と違い、その僧は木魚、鉦、磬、太鼓、鐘の五ツぐらいな楽器を身のまわりにおき、ひとりでそれを巧みにオーケストラしているのであった。