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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
と問わず語りにつづらの中と話している。
「……はい、だいぶ原士が立ち廻っております、なにしろ安治川を出るまでが御難儀で……いえ、三位卿はまだ見えません、来たらお家様と松兵衛が……ヘエ、どうかしばらく御辛抱を」
と言いかけていながら、新吉あわてて蓆をつづらへかぶせて首をすくめた。
ピカリッと手槍の紫電、小屋の前をはすかいに流れたかと思うと――
「怪しい奴ッ!」
突ッかけてきた声だった。
新吉は自分の背すじからつづらの中へまで、その光り物が突きぬいて行ったかと生ける空もなかったが、
「わッ……」
と、別な苦鳴を向うに聞いた。
ドタッ……と誰か倒れたらしい。
見ると槍をつかんだ覆面の死骸が、袈裟がけに切られてピクついている。
その側から白刃をひいて、ツウと寄ってきたのは深編笠の浪人の影――、小屋のまわりをしきりに見廻しているのは、さっき、うどん屋へ預けて行った子供の姿が見当たらないので、
「はてな?」
と探し廻っている眼ざし。
「お、あんなほうへ」
やがて、深編笠の浪人、遠く離れてゆくうどん屋の灯を見出して埋地の果てへ走りだした。
と――
ここに今しがた、血煙の立った様子を嗅ぎ知って、わらわらと集まってきた覆面の原士は――手槍や抜刀の光を隠して、スススと風のごとく、先へ走った編笠の影をつけて廻る。