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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens

Aozora Bunko

そこで、龍耳老人と行き会った。

無論、油断もしないが、騒ぎもしない。弦之丞は、じっと、奇怪な老人を見つめていた。

「若者、腰をかけたらどうだ」

と、老人は煙草をくゆらしている。枯淡だが憎いくらい落ちつき払った態度だ。

「まず、お訊ね申そう」

弦之丞もピッタリ前の岩へ腰をのせた。今はもう双方の顔の筋のうごきまで見て睨みあった。

「ウム、問わっしゃい」

さりげなくはいったが、老人の身ゆるぎに、キッと構えたところが見えた。

「そこもとはいずれの人か」

「川島村、ほか七郷の原士の長、高木龍耳軒と申すものじゃ」

「原士の長? ……ウム、して、拙者に話があると申したが、何の用でここへまいった」

「問うまでもない!」

煙管を斜めにかまえて、龍耳老人、古武士のように豪放な口調、膝びらきになって胸を張った。

「おぬしを討ちにまいったのじゃ」

かれのとした眼は、やがて、弦之丞の面に、ゆるい微笑が彫られてくるのを見た。

――慮外である、と冷酬して答えざるように思われた。

老人は、そこで一だん声を張った。

「不敵な東方の間諜! もはやもがいてものがれぬところだ、岩を噛んで飢うるよりは、いさぎよく死をうけろッ」