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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens

Aozora Bunko

「……よ、酔った! あーッ苦しい!」と、孫兵衛、いきなり、膳の上へ、妙な形にかがみこんでしまった。

不意に、部屋の中の灯を周馬が吹ッ消すと、それとともに、水明りの映る浜座敷の丸窓へ、ボウと、ふたりの虚無僧の影法師がさした。

それから一刻もたったろうか。

孫兵衛は胃の腑からこみ上げる苦い唾液をふくんで、ムックリと首をもたげた。

浜座敷のひと間はまッ暗だった。新町川に燃える祭りの灯に、そこの天井板へかすかな波紋がゆれている。

橋を練りわたる踊り手の列や、また、ほかの座敷はみな宵のような賑わいだが、自分のまわりだけが、明りをさらわれて墓場のようだった。

周馬の姿が見えない!

何よりも先に、こう気がついたことで、孫兵衛ははじかれたように突ッ立った。

「あの野郎、悪く下手になっていたが? ……」

かれはあわてて手を鳴らして、仲居を呼ぼうとするらしかった。が、ふと、頭巾の結び目が解けているのに気がついて、

「あっ! ち、畜生」

思わず胴ぶるいをさせて、ドッタリと坐ってしまった。

「うぬ、おれの袖やふところの中まで、すっかり探って行きやがったな……」

と、ハミ出している胴巻や、めくり返されている襟元などを掻きあわせている間に、かれの両眼、焼酎火のような憤怒がトロトロと燃えあがった。