Japanische Klassiker mit Furigana
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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
Lesen Sie あなたも私も (あなたもわたしも) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.405 Zeichen · 263 Bildschirme
そんなサト子にも、どきっとするような思い出がないわけではない。
青梅の奥で、キャベツ、蕪、トマト、胡瓜など、日本人向きの清浄野菜をつくっている坂田という青年が、中野の市場まで荷を出しに行った帰り、サト子が離屋を借りている植木屋の門の前で牛車をとめ、自動車がクラークションを鳴らすように、牛の首を叩いて、モーと啼かせる。芯まで焼けとおったような黒い顔を、汗だらけにしてはいってきて、サト子の部屋の縁に腰をかけ、一時間ほどおしゃべりをして行く。
門の前で、重々しく長啼きする、牛の声を待っている楽しさといったらなかった。大地から掘りだした木の根っこのような無愛想な青年だが、すこしでも美しく見せたい、よく思われたいというので、仕事にも張りあいができ、いろいろと欲をかいたおぼえがある。
「それから秋川氏……」
秋川というひとを好きなのかどうか、よくわからないが、さほどでもない服を、しみじみとほめてくれたので、うんと稼いで、恰好のついたドレスの一枚もつくって、秋川に見てもらいたいと思ったこともあった。
こんな、す枯れたような女になってしまったのは、愛したいひとも愛されたいひともなくて、あまり長いあいだ一人で暮していたからかもしれない。