Japanische Klassiker mit Furigana
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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
Lesen Sie 『たぬき汁』以後 (あわもりものがたり) von 佐藤 垢石 (さとうこうせき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 118.470 Zeichen · 244 Bildschirme
それは、人間には分からない。
法師温泉の主人岡村宏策老に、このことについて問うと、老は高らかに笑ってはっきりとは語らぬが、三、四年前の晩春の夜半に、それらしい姿を浴槽の湯口のあたりに、幻のように、わが視線に映じたこともあったと答えるのである。その言葉から判断すると、この地方に伝えられる話にどこかいわれがあるのであると思う。
ところで、この美しい岩魚の姿を、ついちかごろ法師温泉の浴槽のなかで実際に見た人がある。それは、石坂賢彌であった。
賢彌は昨年の五月の末、山に漸く早春が訪れたばかりの法師温泉へ旅したのである。三国街道の入口、利根川の月夜野橋のあたりは、もう若葉が青葉に移る季節を迎え、流れの岸に青嵐が樹々の重い梢を揺すっていたが、後閑駅から西方八里奥にある法師温泉をめぐる山々や谷々は銀鼠色のやわらかい嫩葉が、ほんの少しばかり芽皮を破った雑木林に蔽われていた。
樹々の梢が芽吹く季節は、一年中で最も快い。賢彌は、走る乗合自動車の窓から北方を眺めた。視線の届くところに、翁の眉毛のように幾筋もの白い残雪を、山襞に輝やかした谷川岳が間近に高く聳えていた。
宿について、二、三日は、なにごともなかった。