Japanische Klassiker mit Furigana
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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
Lesen Sie 『たぬき汁』以後 (あわもりものがたり) von 佐藤 垢石 (さとうこうせき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 118.470 Zeichen · 244 Bildschirme
ほんのりと紅い貌、澄んだ眼、微笑の中心に座す筋の通った鼻、黒く長い髪。眼ざめるばかりの、若い麗人であった。まだ二十歳は過ぎてはいまい。
魅殺されたように、賢彌は夢心地になって美しい人の顔を見た。と同時に麗人のからだは、ひとりでに宙に浮いて、そのまま風呂場の窓から、そとの闇に吸い込まれるように、消え失せたのである。
窓の闇から、西川渓谷の瀬音が、ただ淙々と響く。
しばし荘然としていた賢彌は、われに返りうしろからつままれる怖さで、浴衣を抱えたまま自分の室へ飛び帰った。
八
翌朝、賢彌は急いで法師温泉を立った。学校が終わって、もう用事のない身であるから、悠々と滞在する予定であったのであるけれど、続いてここに滞在する気持ちになれなかったのである。
西川渓谷に添うて、猿ヶ京の乗合自動車発着場まで三里の山路を急いで歩きはじめた。宿から数十町下ると、西川に渓流がさらに一段と谷底へ刳り込まれ、滝となって落ちる崖の上の路へ出た。そこは、高い絶壁を境として路が右に折れているから、行く手からこちらへ来る人の姿を望むことはできないのである。賢彌は、その絶壁の角を左へ曲がろうとしたとき、だしぬけに正面を曲がって出た人の姿に出会った。