Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

Lesen Sie 入江のほとり (いりえのほとり) von 正宗 白鳥 (まさむねはくちょう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 25.430 Zeichen · 50 Bildschirme

Aozora Bunko

九

……机上に安んじていた彼れの堅固な心が長兄の帰省前後から破れかけていたのに、今夜の災難は最後に下された槌のようだった。

すると、学校から帰った後の毎夜毎夜の長い時間を何もしないで持てあましている自分の姿がみすぼらしく目先にちらついた。……以前ふとヴァヰオリンが厭になったころには、語学に興味が起って、心がその方へ吸寄せられたが、今度は新しい道は開かれそうでなかった。

陰鬱な気懶い気持が夜が更けるにつれて刻々に骨の髄まで喰いこんだ。そして、いっそ今夜の火事が拡がって、机も書物も家も、自分自身も焔の中に包まれて、燃えてしまえばよかったように思われだした。

家から家へ火が移って、村一面に焔の海となって、見覚えのある村の者どもが顔や手足を焼焦がして泣叫んでいる光景を彼れは夢みた。

九

翌朝辰男は火事話を避けるために、起きるとすぐに家を出た。始業時間までにはよほどの暇があったので、所在なさに、先日兄に随いて上った山の方へ足を向た。墓地を抜けると、一歩一歩眼界が拡がって、冴えた朝日は滑かな海を明るく照らしていたが、咋夕の不快な記憶が彼れの頭から消えなかった。先日のように目前の眺めが英文の新な材料として目に映らず、永の年月自分を押籠めた牢屋の壁か何かのように侘しく見えた。