Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

Lesen Sie 入江のほとり (いりえのほとり) von 正宗 白鳥 (まさむねはくちょう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 25.430 Zeichen · 50 Bildschirme

Aozora Bunko

六

海向いの村へ通う渡船は、四五人の客を乗せていたが、四角な荷物を背負うた草鞋脚絆の商人が駈けてきて飛乗ると、頬被りした船頭は水棹で岸を突いて船を辷らせた。辰男はしばらく船の行方を見入っていたが、乗客の笑い話は静かな空気を伝って彼れの耳にも入った。入日の海や野天の風呂場をも彼れは久しぶりに見下した。夜はいつもよりも長く炬燵に当って過した。

六

栄一が帰ってきたのは、予報の日取よりも遅れ遅れて、もはや誰も忘れたように、噂にさえ上さなくなったころであった。夕餐の膳が片づいて、皆ながあちこちへ別れているところへ、俥夫の提灯を先に、突如に暗い土間へ入ってきた。散らばっていた家の者はまたぞろぞろ出てきて一ところに集まった。勝代も物音でそれと知ると、書物を措いて二階から下りてきた。

が、辰男一人は椅子から身動きもしなかった。二三日前から作り始めた英文に心を打込んでいた。「眠った海」「無用な行為」などが、みずから選んだ課題であった。大谷が間に立って取做しかけた縁談は、ろくに話し進まぬうちに立消えになって、父の口から明ら様に彼れに告げて意向を確める必要もなくてすんだが、彼れは二三日妄想に悩んだだけで、元の彼れに返って、テーブルに釘づけのようになっていられた。