Japanische Klassiker mit Furigana
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クルスかんのん
十字架観音
野村 胡堂
Lesen Sie 十字架観音 (クルスかんのん) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.655 Zeichen · 27 Bildschirme
八
隣りの人はそう言って、そっと宵闇の中に十字を切りました。これもまた、切支丹宗門に心を寄せる一人でしょう。
余吾之介は真暗な家の中に入ると、まだ僅かに残る鹿の子の移り香を求めるように、彼方此方をよろめきましたが、最後に畳の上にドッカと坐って、
「鹿の子、許してくれ、鹿の子」
ボロボロと涙をこぼしながら、当もなく首を垂れました。
許婚が殉教者として引かれたのも知らずに、町芸者の家に便々と暮した上、無用の血汐を流したことが、つくづく浅ましかったのでしょう。考えて見ると、最上家にはもう、争わなければならぬ程の事件が一つも残っていなかったのです。
八
明くれば元和九年十二月二十四日(鮮血遺書によれば十二月四日、徳川実記は十月十三日)、原主水以下五十名の切支丹宗徒は三組に分けられて江戸中を引廻された上、東海道品川の刑場に到着しました。
刑場は竹矢来を結廻らし、その中に五十本の磔柱を立て並べ、柱の前三尺余り隔てて、薪を山の如く積み、見張の役人それぞれ床机によって時刻を待ちます。
見物の男女は竹矢来の外へ犇々と詰めかけ、その数幾千とも知れません、中には家光将軍宣下祝賀のため江戸表へ出た諸国大小名まで交っていると伝えられました。