Japanische Klassiker mit Furigana
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なつむしあんどん
夏虫行燈
吉川 英治
Lesen Sie 夏虫行燈 (なつむしあんどん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.200 Zeichen · 37 Bildschirme
『おい、婆や、お城へ行って参るぞ』
庭へ呶鳴って――
『五刻を過ぎたら、お城へ泊ったと思ってよい。戸締りして、早く寝めよ』
と、云いたした。
紫陽花や八ツ手が、海のように揺れている裏庭の方で、
『はい。はい』
婆やの返辞がしたが、ふと、縁先に取り込んである、一抱え程な干衣を見ると、中に、艶やかな女着物が一枚、紛れこんでいた。
『はて、こんな物は、家には無い筈だが――。婆や、婆や、何処から取り込んで来たのだ』
云っているうちに、婆やは又、次の一抱えを、持って来て、縁先へ置いた。
その中にも、羅衣の女小袖だの、扱帯だのがあった。
『――旦那様。それは多分、上のお屋敷からでございましょう。きのうも今日も、虫干をして居らっしゃいましたから、風に舞って、お庭の中へ、吹き落ちて来たに違いございません』
『ウム、萩井家のか』
平四郎は、その衣裳を手に持って、下り藤の刺繍紋を見ながら呟いた。
婆やも、眼をみはって、
『たいそうお金に飽かせた衣裳でございまするの。京染の裾模様――』
『婚礼着だな』
『きっと、お小夜様の……』
『こんなもの!』
平四郎は、それを、ふわーっと庭先へ抛り投げて、婆やへ云った。