Japanische Klassiker mit Furigana
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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
Lesen Sie 夜明け前 (よあけまえ) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 205.629 Zeichen · 408 Bildschirme
彼は伏見屋から大坂地震の絵図なぞを借りて来て、それを父と一緒に見たが、震災の実際はうわさよりも大きかった。大地震の区域は伊勢の山田辺から志州の鳥羽にまで及んだ。東海道の諸宿でも、出火、潰れ家など数えきれないほどで、宮の宿から吉原の宿までの間に無難なところはわずかに二宿しかなかった。
やがて、その年初めての寒さも山の上へやって来るようになった。一切を沈黙させるような大雪までが十六日の暮れ方から降り出した。その翌日は風も立ち、すこし天気のよい時もあったが、夜はまた大雪で、およそ二尺五寸も積もった。石を載せた山家の板屋根は皆さびしい雪の中に埋もれて行った。
「九太夫さん、どうもわたしは年回りがよくないと思う。」
「どうでしょう、馬籠でも年を祭り替えることにしては。」
「そいつはおもしろい考えだ。」
「この街道筋でも祭り替えるようなうわさで、村によってはもう松を立てたところもあるそうです。」
「早速、年寄仲間や組頭の連中を呼んで、相談して見ますか。」
本陣の吉左衛門と問屋の九太夫とがこの言葉をかわしたのは、村へ大地震の来た翌年安政二年の三月である。
流言。流言には相違ないが、その三月は実に不吉な月で、悪病が流行するか、大風が吹くか、大雨が降るかないし大饑饉が来るか、いずれ天地の間に恐ろしい事が起こる。