Japanische Klassiker mit Furigana
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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 200.903 Zeichen · 400 Bildschirme
遠浦帰帆
「悔いはない」
信長は大声で云った。
そして眼をひらくと、四壁の金泥と絵画は赤々と燦いていた。格天井の牡丹の図も炎であった。
一声、悔いはないと、外にまで聞えたので、蘭丸はすぐ駈け入って来た。白綾の小袖は鮮血を抱いてすでに俯っ伏している。蘭丸は武者隠しの小襖を引いて柩へ納める如く信長の屍を抱え入れ、ふたたび静かにそこを閉めて、床の間から退がった。そして彼もすぐ屠腹すべく短刀をにぎったが、なおその室がまったく焔と化しきるまでは、らんらんたる眼をくばって信長の屍を守っていた。
遠浦帰帆
ひとりの卑怯者もいなかった。ひとりの死汚い者も出なかった。悉くみな信長に殉じた。外泊していた者まで駈けつけて来て、主君の側に忠誠の枕をならべた。
昨夢一燼灰
枕頭鳥不啼
さいかちの木の藪へ逃げこんで辛くも難をまぬかれた寺僧のひとりは、茫然、口のなかで呟いた。
男女を合わせて、侍童から厩中間の端まで加えれば、信長の扈従百余名はいたはずであるが、本能寺全伽藍、ただ見るぐわうぐわう燃える一炬となったときは、一箇の人影も、一声の絶叫もなかった。火は水の如く寂たるものだった。
百霊の痛恨は思いやられる。