Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
この部屋付の看護婦は、白いクロオバアの花束を庭から作って来て、それをお房にくれた。
「房子さん、好いリボンを頂きましたねえ――御土産(おみや)ですか」と看護婦が言った。
「仕舞って置くのよ、仕舞って置くのよ」
こうお房は繰返していたが、やがて看護婦から貰った花束を握ったまま眠って了った。
夕方に私は皆川医学士に逢った。お房の病状を尋ねると、今すこし容子(ようす)を見た上でなければ、確めかねるとのことであった。その晩から、私達はかわるがわる子供の傍に居た。
「父さん――父さん――父さんの馬鹿――」
こう呼ぶ声が私の耳に入った。私は、どうなって行くか分らないような子供の傍に、疲れた自分を見出した。それは病院へ来てから三日目の夜で、宿直の人達も寝沈まったかと思われる頃であった。
「父さん、房ちゃんは最早駄目よ」
熱の譫語(たわごと)とも聞えなかった。と言って子供の口からこんな言葉が出ようとも思われなかった。私は夢を辿る気がした。
「父さん、房ちゃんは……ねえ……」
その後が聞きたいと思っていると、パッタリお房の声は絶えた。その晩は私も碌(ろく)に眠らなかった。
次第にお房はワルく成るように見えた。