Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
種々な色彩に塗られた銀座通の高い建物の壁には温暖な日が映っていた。用達の為に歩き廻る途中、時々彼は往来で足を留めて、おせんのことを考えた。彼女が別れ際に残して行った長い長い悲哀を考えた。
恐らく、彼女は今幸福らしい……無邪気な小鳥……
彼女が行った後の火の消えたような家庭……暗い寂しい日……それを考えたら何故あんな可愛い小鳥を逃がして了ったろう……何故もっと彼女を大切にしなかったろう……大塚さんは他人の妻に成っている彼女を眼のあたりに見て、今更のようにそんなことを考え続けた。
午後に、会社へ戻ると、車夫が車を持って来て彼を待っていた。彼はそれに乗って諸方馳ずり廻るには堪えられなく成って来た。銀行へ行くことも止め、他の会社に人を訪ねることも止め、用達をそこそこに切揚げて、車はそのまま根岸の家の方へ走らせることにした。
大塚さんが彼女と一緒に成ったに就いては、その当時、親戚や友人の間に激しい反対もあった。それに関らず彼は自分よりずっと年の若い女を択んだ。楽しい結婚は何物にも換えられなかった。そんな風にして始まった二人の結び付きから、不幸な別離に終ったまでのことが、三年前の悲しいも、八年前の嬉しいも、殆ど一緒に成って、車の上にある大塚さんの胸に浮んだ。