Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
父親の声に相違ないのです。
「奥様、吾家の御父さんで御座ますよ」
奥様は屏風の蔭にちいさくなっていた男の手を執って、押入のなかに忍ばせました。私は立って参りまして表の戸を開けながら、
「御父さん、何しに来たんだよ……今頃」
「はい、道に迷ってまいりやした」と舌も碌々廻りません様子。
「仕様がないなア、こんなに遅くなって人の家へ無暗に入って来て」
親とは言ながら奥様の手前もあり、私は面目ないと腹立しいとで叱るように言いました。もう奥様は其処へいらしって、燈火に御顔を外向けて立っておいでなさるのです。
「お定の御父さんですか」
「否、そうじゃごわしねえ。私は東京でごわす」
と恍け顔に言淀んで、見れば手に提げた菎蒻を庭の隅へ置きながら蹣跚と其処へ倒れそうになりました。
「これ、さ、そんな処へ寝ないで早く御行よ」
「まあ、いいから其処へ暫く休ませて遣るが好やね」
「こんなに酔ったと言っちゃ寝てしまって仕方がありません。これ、御行よ」
「そこですこし御休みなさい」
「はい」と父親は上框へ腰を掛けながら、
「私はお定さんに惚れて来やした」
「早く去っとくれよ。こんなに遅くなって人の家へ酔って来たりなんかして」