Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
主人を卑すという心は一時に湧上る。今まで、美しいと思った御自慢の御器量も、羨しいと思った華麗な御風俗も、奥様の身に附いたものは一切卑す気に成りました。怒の情は今までの心を振い落す。御恩も、なさけも、思う暇が有ません。もうその時の私は、藁草履穿いて、土だらけな黒い足して、谷間を馳歩いた柏木の昔に帰って了いました。私は野獣のような荒い佐久女の本性に帰って、「御母さん、御母さん」と目的もなく呼んで、相生町の通まで歩いて参りました。
橋の畔に佇立んで往来を眺めると、雪に濡れた名物生蕎麦うんどんの旗の下には、人が黒山のように群っておりました。雪を払いていた者は雪払を休める、黄色い真綿帽子を冠った旅人の群は立止る、岩村田通の馬車の馬丁は蓙掛の馬の手綱を引留めて、身を横に後を振返って眺めておりました。その内に、子守の群が叫びながら馳けて来て、言触らして歩きます。聞けば、千曲川へ身を投げた若い女の死骸が引上げられて、今蕎麦屋の角まで担がれて来たとの話。一人の子守が「菊屋に奉公していた下女」と言えば、一人が「柏木から来たおつぎさんよ」と言う。さあ、往来に立っている群のなかには噂とりどり。