Japanische Klassiker mit Furigana
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しゅんせつ
春雪
久生 十蘭
Lesen Sie 春雪 (しゅんせつ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.672 Zeichen · 23 Bildschirme
「われわれが注意しはじめてから、雨の日も風の日も、休まずに、もう三週間もつづいているんですがねえ」
柚子は麻布霞町の家から都電で品川まで来て、川崎行のバスに乗るから、当然、大森海岸で降りるわけで、これにはふしぎはないが、四十分もそんなところに立っているというのは尋常でない。尾崎、ゾルゲの事件のあった直後で、うるさい時期でもあった。
翌朝、池田は大森海岸のバスの停留所の近くに車をとめて、窓から見ていると、七時ちょっとすぎに柚子がバスから降りてきた。なるほど携げ袋から岩波の文庫本かなにか出して、立ったまま読んでいる。
ひいき眼ではなく、頭は悪そうではないが、憲兵づれに注目されるまで、毎朝、こんなところで、なにをうつつをぬかしているのかと、ジリジリしていると、まだ涼気の残っている京浜国道を、ギャリソン帽にズボンだけの、ピンクに日灼けした半裸体の俘虜を乗せた大型トラックが二十台ばかり、一列になってやってきた。
毎朝、島の収容所から、日本通運、京浜運河、三菱倉庫、日本製油、鶴見造船などの使役に行く連中で、この界隈を、毎日のように通るので馴れっ子になっているが、山手に住んでいる柚子には、この感覚は斬新らしく、文庫本から顔をあげて、つぎつぎにトラックを眼で追いはじめた。