Japanische Klassiker mit Furigana
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はる
春
岡本 かの子
Lesen Sie 春 (はる) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.864 Zeichen · 48 Bildschirme
其処へ看護婦が京子の名札を持って呼びに来た。
一つ一つ黒い陰を潜めているような陰気な幾つもの扉を開け閉めして、二人は診察室の次の控室へ連れて行かれた。
茲にも古い疲れた椅子、長椅子、そして五六人の患者や附添が、坐ったり佇ったりして居た。加奈子は、新しい人達の群に来てまた新しい刺戟を京子に与えることを恐れた。それで、京子の肩を抱くようにして自分の隣に京子の椅子を押しつけ、京子の首を自分の懐に掻き込むようにした。
――疲れてるわね。あんた、斯うして、少しおねむり。
――うむ。
京子の声が素直に、加奈子の懐に落ちて行った。いくらか赤味を帯びた京子の柔い髮の毛が、乳呑児のようにかぼそいうなじに冠り、抱えて見て可憐そうな体重の軽さ。背中を撫でると、かすかに寝息のような息づかい。
見栄も外聞もなく加奈子に委せ切った様子が不憫で、また深々と抱き寄せる加奈子の鼻に、少し青くさいような、そして羊毛のような、かすかな京子の体臭が匂う。
室内の患者の一人は三十歳ばかりで色白のふくよかな美貌の女。その女はその美貌を水も滴るような丸髷と一緒に左右へ静かに振って居る。一しきり振り続け、ちょっと休む間には何かぶつぶつ口籠りながら呟く。