Japanische Klassiker mit Furigana
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くらがりのおとまつ
暗がりの乙松
山本 周五郎
Lesen Sie 暗がりの乙松 (くらがりのおとまつ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.992 Zeichen · 25 Bildschirme
三次はすっと杉林を出て行った。
そこから百姓家の母屋までは、歩数にしてほんの十二三歩だが、こっちはこんもり茂った杉林の暗がりで姿を見られる心配はない。三次は百合畑の脇から横庭へぬけて、すっと土間の中へ入って行った。
静かな宵だ、どこか近くに用水堀でもあるらしく、蛙の声が澄んで聞える。梅田屋は懐中から『夜の梅』という口中薬を取出して、ぷつりと前歯で噛割りながら
「――良い宵だの」
と独言を云った。
待つほどもなく、家の中から影のようにぬけ出して来た三次は、音もさせずに素早く杉林の中へ戻る、――古薩摩の胴巻包をぽんと叩いて、
「親分、上首尾でござんした」
「空巣だな――」
「親爺ゃあ湯治場へ女房を迎えに行った留守、ちゃんと刻を計った仕事でござんす――どうかお納めなすって」
と梅田屋へ手渡をした。
「だいぶ重いの」
乙松はにやりと笑って、「まさか礫じゃあるめえの」
「切餅が四つあるはずです」
「もらっておくぜ」
「最初からそのつもりでさあ――お! 帰って来たようすですぜ」
丘の向うから人の来るのが見える。
「逃げやしょう、親分」
「まあ待ちねえ」
梅田屋は静かに制した。