Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

Lesen Sie 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 169.810 Zeichen · 345 Bildschirme

Aozora Bunko

やや経って、玄関から門までの石畳を踏んで出て行く谷中尉の靴の音がきこえて来た。暫くして、妓が部屋に来た。

妓には、右の耳が無かった。

女と遊ぶ、このことが生涯の最後のことであることが、私にははっきり判っていた。桜島に行けば、もはや外出は許されぬ。暇さえあれば眠らねばならぬような勤務が、私を待っているのだ。私は窓に腰かけ、黙って妓を眺めていた。女は顔の半分を絶えず私の視線から隠すようにしながら、新しく茶をいれた。俄かに憤怒に似た故知らぬ激しい感傷が、鋭く私の胸をよぎった。

「耳がなければ、横向きに寝るとき便利だね」

此のような言葉を、荒々しい口調で投げて見たくてしようがなかった。言わば、頭をかきむしるような絶望の気持で――妓を侮辱したかったのではない。此の言葉を口に出せば、言葉のひとつひとつが皆するどい剣のようにはねかえって、私の胸に突き刺さって来るにきまっていた。口に出さずとも、もはや私の胸は傷ついているのではないか。私は、私自身を侮辱したかったのだ。生涯、女の暖い愛情も知らず、青春を荒廃させ尽したまま、異土に死んで行かねばならぬ自身に対し、此のような侮辱がもっともふさわしいはなむけではないのか。