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Japanische Klassiker mit Furigana

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme

Aozora Bunko

――甲斐が帰国していてくれたなら。

と七十郎は馬を駆りながら思った。

「すっかり明るくなった」と里見十左衛門が云った、「遠刈田が見えるぞ」

七十郎は眼をあげた。

右手向うに青麻山が、片側だけ際立って明るく、まだ眠りからさめていないような灰色の空に、ぬきんでて見えた。かれらは永野で馬を替え、槻木で乗り継ぎ、岩沼までいって宿を取った。

七十郎は饒舌になり、上方を遍歴した話しや、熊沢蕃山との交渉などを、元気な口ぶりで語り続けた。だが十左はすっかり黙りこんでしまい、気むずかしい顔つきで、自分からは口をきかず、ただ相槌を打つばかりだったが、岩沼で宿を取り、夜具を並べて横になってから、太息をついて、ぽつんと云った。

「おれは怯えている」

七十郎にはよく聞えなかった。夕食のときに飲んだ酒がきいて、躯にはまだ馬に乗っているような感じが残ってい、それが酔いをさそって、こころよく眠れそうになっていた。

「云いたくはないが」と十左はまた云った、「どうやらおれは怯えたような、悲しいような心持だ、こんなことは初めてだが」

「疲れているんだ」

「おれはどうやら、七十郎のあとに残るのが心ぼそいらしい、まるで女のくさったような、みじめな心持だ」