Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
が、父貞氏の健やかなうち、少しなと世上の見聞を広うしておきたいものと、たって父母にねだって出て参ったのです。忍びやかでこそ、六波羅の身寄りの家にも置かれますので」
「なるほど、朝家の御被官であるだけでなく、幕府の御家人でもおわせられたの。こりゃ、むずかしかろ」
やはり世事にはうとそうな老歌人の言である。為定は抜け歯の多い口をあいて笑った。
老歌人の為定から「……お供も召されずお一人でか」と、いぶかられたのもむりはない。
いつもの右馬介さえ今日は連れていなかったのだ。都は知らず東国では源氏の名流、武門の雄と見なされている足利氏の曹司である。ゆらい遠国者の上洛ほど派手をかざって来るものといわれているのに、飄として、一人で門を叩くなどはおかしい。先で偽者と過られなかったのも、思うに、彼にはこんな場合もあろうかと、とくに心をつかってくれたらしい母の添文のお蔭だった。
彼にもそれが分っていよう。やがて為定の門を辞して、あてどなく町を行くうち、ふと、石の地蔵尊を路傍に見かけると、何やら袂の物を供物にささげてそれへ額ずいていた。それは為定の家で茶菓子に出た粉熟であったが、甘葛と餅で作った美しい五色の菓子は、彼がまだ手を合せているうちから、そこらにいた貧しげな童たちが、互いに翡翠みたいな鋭い眼でねらっていた。