Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
悲歌
そうした中に、菊王の姿も揉まれていた。俊基はうれしかった。
だが。――彼に托してある楠木への密書に考え及ぶと、その彼が、もうこんな巷に出ていることすら不安になった。……で、わざとその菊王へは、眼にものいわせて、きッと怖い顔してみせた。
すると、菊王は、振っていた手をひっこめて、急にくるっと、人ごみを分けて、蹴上の中腹にある大きな榛の木の方へ駈けて行った。
見ると、榛の木蔭には、一茎の秋草みたいに、被衣した一人の女房がたたずんでいた。じっと、こなたを見まもっている姿から、声なき声が、俊基の胸をついて来た。
「あっ、小右京よ。……小右京」
つい、不覚な涙に胸もみだれかけたが、しかし彼は、ゆうべ見た人妻の波路をべつな心で思い出していた。
究極に立った女の愛と、男の愛との、折合いのつかない食い違いが、小右京と自分の間にもなくはないと、考えられた。何かむごたらしい両性の差が、自分らの上にもまざと在るのを知った。
悲歌
押送の同勢は、やがて東海道の泊りを、かさねていた。
木曾川で数日川止めに遭ったほか、概して道中の日和はよかった。ただし護送輿の足なみ。いやでも道は捗どらない。