Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
なべとかま
海も山も、燦々として眩い。
鎌倉の浜には、銀びかりの鰹が、今日はおびただしく水揚げされ、鶴ヶ岡から若宮大路の方を見ても、桜若葉のたなびきが、日ましに色濃くなって来たことに気づかれる。
「ああ、夏も近づく」
上杉憲房は、つぶやいた。
彼の胸に、こんな季節感がふと映じたのも、何十日ぶりか。
無二の知己とたのむ赤橋殿の門を辞して、従者の曳く駒の背にうつり、大鳥居内の横大路を曲がるせつなに、しみじみ、振返られたことだった。
「……思えば、この一と月、われながら、ようたたかって来たものだわえ。花も見ず、現もなく」
しかし、その足利家受難の問題も、赤橋殿の力添えで、ほぼ公辺の疑いも拭われていた。身は疲れていたが、眉は久しぶり明るいのだった。
で、その尽力に、万々の礼をのべるため、あらためて今朝、赤橋殿へ伺ったところ、かえって、饗応の微酔に眼もとを染められ、やっと今、辞去して出たところだった。
「……ありがたい。これで甥の高氏どのの身も晴れ、足利家にも疵はつかぬ。すべて、あの御方のお力じゃった」
もいちど、彼はいま辞して来た大屋根を振向いた。――そこの門前近くには、八幡宮の放生池から来る清流に架けられた朱の橋がある。