Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
「いや、たいへんな人間だの。この鎌倉も、頼朝公の開府から百五十年。それ以前は、わびしき漁村と、松の岡と、初夏は、山つつじの色ばかりだったそうだが、こうなるものかなあ、百五十年の年月には」
「あ。若殿、お下馬を」
「何で下馬せねばならぬ?」
「あれ。みな下馬したり、路傍へひざまずいておりまする。執権殿の御愛犬が今し辻を通るものとみえまして」
「さようか」
ばかなと、嘲うかと思いのほか、高氏も素直に馬を降りた。そして、往来の流れがもとの姿にもどるのを待ってから、馬上に返った。
「――御威勢だな」
一列の犬奉行の人数とその輿とを、高氏は妙な顔して、振向いていた。
かつて京の小酒屋で見たような逞しい闘犬が、別拵えの“御犬輿”の上に担われて、傲然と、路傍の庶民を睥睨し、武士数十人をしたがえて、今日の曠れの場、鳥合ヶ原へ向って行くのだ。――それは、人間喪失の憤りを伴う割り切れないおかしさともいえる感情だったが、彼は、ぷいと、駒首をめぐらして、
「急ごう。赤橋殿もお待ちかねぞ」
と、かろく馬の脇腹を、踵で蹴ッた。
放生池の水は、つつじの花と緑を映して、今朝も市塵の外にあった。