Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
――いや小右京。まず何よりは今を惜しもう。そなたも夕化粧して顔を直せ。俊基も身清めしよう。そしてそなたの琴に、久しぶりで、わしも琵琶を抱いて合奏せてみようよ。さ。……顔を直せ。気を取り直せ」
軒の月は、二十日過ぎ。
匂う小右京の黒髪に、月の光がすべっている。
琴を前に。白い指のまろび出す音階は、絃やら涙の音やら、彼女にもわからなかった。そのうごかない唇が歌う微かな琴歌も、嗚咽に似ていた。
飽かずして
別るる君が名残りをば
のちのかたみに
つつみてぞおく……
これは平家都落ちの夜、仁和寺ノ宮が平ノ経正へ賜わった惜別の歌だった。
――聞きすましつつ、琵琶を抱いていた良人の俊基は、
「オオ。さらばわしも」
一弾、二弾、絃を掻鳴らして。
くれ竹の
掛樋の水は変れども
なほ住み飽かぬ
家のうちかな
ほんとは、「宮のうち」とある本歌を、彼はわざと「家」といって、朗吟した。
明くれば囚人輿での鎌倉下り。――惜しむ夜はもう更けかけていた。
宵には、家職の侍、後藤助光と、侍童の菊王も加えて、しめやかに、別れの小酒盛りを酌み、なお飽かぬ思いを夫妻は琵琶と琴に寄せていた。
これには、ふたりにとって忘れがたい、そもそもの思い出もある。