Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
繚乱七種
その兄の隙を見て、直義が、ふと誘った。
「兄者人、お手すきなれば、裏の丘へのぼってみませんか」
「オ、直義か。まだ二人だけで落着いたはなしも出来ずにいたなあ。そのくせ、わしは用なしのぶらり駒よ、用がなくて困っているほどだ。行こうか」
屋敷裏の丘は、六浦越えの山波へつづいている。兄弟は秋草の中に岩を見つけて腰かけた。野ぶどうの実が、足もとに見え、鵯が高啼く、鵙の音が澄む。――ふたりの胸に幼時の秋が思い出された。
繚乱七種
「あすの夜ですなあ、もう」
「なにが」
「なにがッて、兄者人……。はははは」
直義は、兄を指さして、からかった。
「――お羞恥みだな、ひどく」
「わしの嫁迎えか」
「もちろんです。同時に、足利宗家の御当主、もう兄者人などと甘えて呼ぶこともなりませんな」
「では、どう呼ぶのだ」
「正しく、殿とか、高氏様とか」
「つまらんことを。……なあ直義、おたがいは、いつまでも、腕白時代の兄弟の気心のままで行きたいものだ」
「ほんとですか」
直義は、並んで腰かけている兄の膝がしらを、固くつかんで。
「では。この弟が、何をいっても、御勘弁くださいましょうな。もし、お気に障ったら、幼時のお互いみたいに、直義の頬を撲りつけて下さればいい」