Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
もすこし、様子を見てからでも」
つい尼も、ためらわれて来る。盲を連れてのそんな足掻きは、しょせん無謀とも迷わざるをえない。――妄想スル莫レ、妄想スル莫レ……と胸でいってみる。でも、それはどうしていたらいいことなのか。
――すると。
獣ではない。まさしく、人間と人間のもの。
どこかで、吠え合うような声が聞え、だ、だ、だッと、跫音に交ざって、ぎゃッと、異様な一と声が、彼方の闇をつンざいた。
「か、覚一」
「お母アさま!」
思わず両手で、耳を塞いだまま、母子はペタと俯っ伏した。
自分の恐怖だけではない。母の本能も彼女を駆って。
「いけない。……何かもう虫が知らせる。さ、お立ち、お立ち。母が付いている。ここを離れて、夜さえ明かせば」
夢中で、子の手を引ッぱった。覚一とて、恐さに、声も出ないのである。鞠まろびに寝小屋の外へ這い出し、必死な母の手に引かれるままに引かれて走ッた。
ところが……。
従者三人のうちでも、ただひとりは、供する主筋の母子を、密かに、警固していた者はあったのだ。
しかし、その御厨ノ伝次は、ちょっと前、八郎太に連れ出されて、隣の塒を離れたと思うと、たちまち彼方の暗闇で呶号していた。