Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
そして何かに、つまずいた。
それは、自分が悪へおびき入れた弱気な八郎太の死骸だったが、彼の眼にはもう一塊の土くれに過ぎない。眼はただ、彼方の小屋――草心尼と覚一の塒へ向って燃えていた。
喘ぎ喘ぎの、その数十歩の間だけは、彼にも幸福に似た胸の鼓動があった。郎党奉公では一生かかっても手にしえない程な金、美しい若尼の肌、未来の美酒が、目のさきにチラついていた。
しかし、それはそれまでのことでしかない。
「やっ? ……ヤ、ヤ」
辿りついた寝小屋には、尼も覚一も見えなかった。彼は愕として、外を廻ってみたり、また、内へ入ってみたり、
「しゃッ、逃げやがったな」
ふたたび、その朱にそんだ姿を励まして、山中幾里の闇を西へ、はッ、はッと、口を開きながら、追いかけはじめた。
「……盲の子連れだ」
藤五は何度も言ってみる。
「知れたもの。……逃げようたって、逃がしてたまるものか」
彼とて、その足つきは、そう自由でもない。御厨ノ伝次を相手に、数ヵ所の浅傷を負わせられていたからだ。
気はあせる。精根も尽きかける。しかし、この苦痛は、富をつかむ代価だと彼は励む。だが、眼はぐらぐら揺れ、口は渇いて、ふと近くの水音を聞くと、矢もたてもなくなった。