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Japanische Klassiker mit Furigana

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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme

Aozora Bunko

――でなければ血の酔に憑かれた当夜の心理からまだ醒めていなかったのか、

「ああ」

時々、茫と立ち暮れた眸で、北の空をふりかえった。ふるさとを考え出しているのだった。

そのふるさとの人間は口うるさい。ひとの立身出世はやたらにそねむ。宮を殺した悪党よの、畜生よのと誹るだろう。家の家族も肩身のせまい思いで世間を歩けもしまい。後日、恩賞にあずかったところで、生涯そんな人中では幾日心からたのしい日を持てるだろうか。

「なにもない。末のたのしみもない。ふるさとも失くなった。あるのは人のそしりと白い眼つきだけだ」

淵辺は首を振った。何をふり払おうとしたのか、または独り合点するところでもあったのか、それからは急に足を早め、日ならずして、先に落ちて行った主君直義の人数に、手越附近で追いついた。

手越の宿は、駿府(現・静岡)の西で、直義たちは、渡河を敵にさまたげられ、数日の苦戦になやんでいたところだった。――そこへ、ひょこっと姿を見せた淵辺に、直義は驚きもし、また仔細を聞いては、

「よくやったぞ」

と、口をきわめて賞揚したことでもあった。

淵辺はボロと涙をこぼした。自分の労が賞められる場所はここにしかないのを知ったからだった。