Japanische Klassiker mit Furigana
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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
Lesen Sie 花火・来訪者 他十一篇 (あぢさい) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.046 Zeichen · 104 Bildschirme
冬は暖い火が焚いてある。夜は明い燈火が漲っている。そしてこの広い一室の中では有らゆる階級の男女が、時としてはその波瀾ある生涯の一端を傍観させて呉れる事すらある。HenryBordeaux という人の或る旅行記の序文に、手荷物を停車場に預けて置いた儘、汽車の汽笛の聞える附近の宿屋に寝泊りして、毎日の食事さえも停車場内の料理屋で準え、何時にても直様出発し得られるような境遇に身を置きながら、一向に巴里を離れず、却て旅人のような心持で巴里の町々を彷徨している男の話が書いてある。新橋の待合所にぼんやり腰をかけて急しそうな下駄の響と鋭い汽笛の声を聞いていると、居ながらにして旅に出たような、自由な淋しい好い心持がする。上田敏先生もいつぞや上京された時自分に向って、京都の住居も云わば旅である。東京の宿も今では旅である。こうして歩いているのは好い心持だと云われた事がある。
自分は動いている生活の物音の中に、淋しい心持を漂わせるため、停車場の待合室に腰をかける機会の多い事を望んでいる。何の為めにここに来るのかと駅夫に訊問される折りの用意にと、自分は見送りの入場券か品川行の切符を無益に買い込む事を、いつでも辞さないのである。