Japanische Klassiker mit Furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.224 Zeichen · 269 Bildschirme
世間には往々読まざる書物をれいれいと殊更人の見る処に飾立てて置く人さえあるのに、これはまた何という一風変った癇癖であろう。私は『柵草紙』以来の先生の文学とその性行について、何とはなく沈重に考え始めようとした。あたかもその時である。一際高く漂い来る木犀の匂と共に、上野の鐘声は残暑を払う凉しい夕風に吹き送られ、明放した観潮楼上に唯一人、主人を待つ間の私を驚かしたのである。
私は振返って音のする方を眺めた。千駄木の崖上から見る彼の広漠たる市中の眺望は、今しも蒼然たる暮靄に包まれ一面に煙り渡った底から、数知れぬ燈火を輝し、雲の如き上野谷中の森の上には淡い黄昏の微光をば夢のように残していた。私はシャワンの描いた聖女ジェネヴィエーブが静に巴里の夜景を見下している、かのパンテオンの壁画の神秘なる灰色の色彩を思出さねばならなかった。
鐘の音は長い余韻の後を追掛け追掛け撞き出されるのである。その度ごとにその響の湧出る森の影は暗くなり低い市中の燈火は次第に光を増して来ると車馬の声は嵐のようにかえって高く、やがて鐘の音の最後の余韻を消してしまった。私は茫然として再びがらんとして何物も置いてない観潮楼の内部を見廻した。