Japanische Klassiker mit Furigana
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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
Lesen Sie 菊屋敷 (きくやしき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.620 Zeichen · 71 Bildschirme
「……ああ」志保は緊めつけられるように声をあげた、「それではやはり杉田さまだったのかしら、いえいえ、そんなことはない、杉田さまならうちつけに仰しゃれる筈だ、父上が在世のときにだって、じかに父上にお望みなさることもできた筈だ、……そんなことはない、決して杉田さまではない」
かれではないと否定することは、かれだという疑いをたしかめるためだったかも知れない、その夜からのち、志保の耳には「杉田さまだ」と囁やくこえが絶えず聞え、そのたびに遽てて「いいえ違う、あの方ではない」と心にうち消すことが続いた。それはもう物語を読むような美化されたものではなく、追い詰められるような胸ぐるしい感じだった。……かつて主の知れない手紙に書いてあったように、自分は美しくないというかたよった感情、女でこそあれ学問の道で名をあげようと思いあがった気持、男性などには眼もくれなかった傲慢、そういうむすめらしからぬ態度が、杉田の求婚をよせつけなかったのだという、はげしい自責の念さえつきあげてくる、「このままではいられない」志保はやがてそう思うようになった、「……もうこのままうやむやにはして置けない、善かれ悪しかれ、はっきりさせなければならない、それも早くしないととり返しのつかぬことになりかねないから」