Japanische Klassiker mit Furigana
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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
Lesen Sie 菊屋敷 (きくやしき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.620 Zeichen · 71 Bildschirme
十五
――どうしよう。
机の前に坐り膝に手を置いて、志保はかたく唇を噛みしめながら頭を垂れた。……妹の手紙は殆んど悲鳴である、そのかなしみは尤もだと思う、子を喪なった母の気持がどのようなものか、今の志保にわからないわけがない、身をいためこそしないが四年のあいだ晋太郎を育ててきて、子の可愛さいとしさというものを、骨にしみるほど味わっているのだ、小松の悲鳴をあげる苦しさはよくわかる、しかし、それほど自分が悲しさにまいっているのに、姉の気持をどうして察しようとしないのか、健二郎に死なれて自分がそれほど悲しいなら、晋太郎をとり返される姉の気持も察しられる筈だ、……それほどの思い遣りもないのか。
「勝手すぎます」志保はわれ知らずそう云った、「……それではあまり勝手すぎますよ小松」
十五
晋太郎を返してしまう、志保はそれを考えてみた。あの賢しい眼がもう自分を見なくなる、この頃とくに凛としてきた動作、つい過まちをして叱られるときの悄気た顔つき、なにやら独りで力んでいる可愛い唇もと、それが再び見られなくなるのだ、おっとりとして明るい声も聞けない、かれのものに当ててある部屋は空になるのだ、夜半に見まわってもそこはもうがらんとして誰もいない、いつまでも見飽きないあの寝顔もなくなってしまう、そのほか晋太郎に付いていたもの、晋太郎だけ