Japanische Klassiker mit Furigana
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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
Lesen Sie 菜穂子 (なおこ) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 88.758 Zeichen · 173 Bildschirme
二
今いる町のなかは、三月なかばの、冷え冷えと曇り立った暮方だった。
「なんだが菜穂子さんはあんまり為合せそうにも見えなかったな」と明は考え続けながら、有楽町駅の方へ足を向け出した。「だが、そんな事を勝手に考えたりするおれの方が余っ程どうかしている。まるで人の不為合せになった方が自分の気に入るみたいじゃないか……。」
二
都築明は、去年の春私立大学の建築科を卒業してから、或建築事務所に勤め出していた。彼は毎日荻窪の下宿から銀座の或ビルディングの五階にあるその建築事務所へ通って来ては、几帳面に病院や公会堂なぞの設計に向っていた。この一年間と云うもの、時にはそんな設計の為事に全身を奪われることはあっても、しかし彼は心からそれを楽しいと思ったことは一度もなかった。
「お前はこんなところで何をしている?」ときどき何物かの声が彼に囁いた。
この間、彼がもう二度と胸に思い描くまいと心に誓っていた菜穂子にはからずも町なかで出逢ったときの事は、誰にとて話す相手もなく、ただ彼の胸のうちに深い感動として残された。そしてそれがもう其処を離れなかった。あの銀座の雑沓、夕方のにおい、一しょにいた夫らしい男、まだそれらのものをありありと見ることが出来た。