Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おやばかにゅうどうき

親馬鹿入堂記

尾崎 士郎

Lesen Sie 親馬鹿入堂記 (おやばかにゅうどうき) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.182 Zeichen · 24 Bildschirme

Aozora Bunko

奇蹟

赤ん坊がうまれることは、もはや絶対の運命である。もし、順調に胎児がうまれたとすれば、男か女かよくわからないにしても、子供が十歳になるときに私は早くも六十である。あと十年、この身体が保てるかどうか。おそらく私は生きてはいまい。私は、ときどき灰色の雲の低く垂れ下った川岸に、ちゃんちゃんこを風に吹かせながら、うしろ向きに立っている子供の姿を幻覚の中にハッキリ見るようになっていた。生命の河である。運命の限界がそこにあり、そのひとすじの河によって遮られた人生の行手には唯、際涯もなくひろがる無があるだけである。

奇蹟

出産期が近づくにつれて私は次第に緊張してきた。

五月八日の夜である。窓をあけると黒く淀んだ月が空にうかんで、青葉の色がうすい靄の中にぼうっとひろがっている。それで、ああ今夜は金環蝕だったということに気がついた。そこへ、隣りの井田邸から若い女中さんがやってきた。いま病院から電話があって今夜あたりらしいから来てくれという知らせがあったというのである。私は寝ている娘を起して留守番をさせ、すぐ外套をひっかけて出ていった。F病院の表戸はもうしまっていたので私は裏口へまわり、足音を忍ばせるようにして二階の病室へあがった。