Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
かとにん
過渡人
豊島 与志雄
Lesen Sie 過渡人 (かとにん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.206 Zeichen · 41 Bildschirme
矢島さんはそれらをちらりと見廻したが、そのまま書卓の前の肱掛椅子に身を落した。
「俺はこの頃何かに脅かされている。それが何だか俺には分らない。」と矢島さんは思った。
「俺は一人前の仕事はやって来たつもりだ。そして漸く俺の事業が安定になった今、この感情は一体何だ? 俺の生活が落ちついて来ると共に、俺の心は不安定になってくる……。」
矢島さんの生活は落ち付いていた。矢島さんは自分の身に名誉と富と権力とを意識していた。彼は自分の会社を思った。其処に働く多くの人と偉大な機械とを思った。日々に自分の意志に依って作り出さるる多大な電力を思った。それから、その電力を受くる幾多の工場、夜には数万の人家、それらの上に建てられた自分の力を思った。確かに矢島さんにとっては、事業は単なる営利の仕事ではなかった。意志と力と生活とが織り込まれた生きた人格の働きであった。
「俺は一個の社会の支柱だ。」と彼は自ら云った。
「然し乍ら俺はこの頃何かを欲している。この欲求は何処から来たのであろうか。或は俺は今の生活に倦怠を……。」
其処まで考えた時、矢島さんは大きい矛盾に捕えられた。彼は、自分自身の心に倦怠を感じていないことと、自分の生活のまわりに倦怠の色調が濃くなってきたこととを、殆んど同時に意識した。