Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あわもりものがたり

『たぬき汁』以後

佐藤 垢石

Lesen Sie 『たぬき汁』以後 (あわもりものがたり) von 佐藤 垢石 (さとうこうせき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 118.470 Zeichen · 244 Bildschirme

Aozora Bunko

私は、黄昏の道を家へ向かって歩いた。なににしても二円あまりの金を懐中したことは近来に珍しい。まことに、ありがたい次第である。おかげさまで、この金があれば米も買える。久し振りで味噌汁も味わえよう。子供に、塩鰯の一尾ずつも振舞えようか。私は、妻や子が喜ぶ顔を眼の底に浮かべて、いそいそと寒風の吹く街はずれを歩いた。

街はずれに、泡盛屋があった。表障子に一杯十銭と書いてあるのが、眼に映った。私は、いままで親爺の家へ行き帰りに、一杯十銭の文字を何度怨めしく眺めたことであろう。私は、懐ろにある二円あまりの金をしっかり握って往来に立ち、頭がふらふらとしたのである。

――幾月振りだ、一、二杯は天の神さまも許してくれるだろう――

思いきって、泡盛屋の腰高障子をあけた。三杯ばかり、立てつづけに呷った。酒精の熱気が五臓六脇へ泌みわたる。咽が快く鳴って、食道を烈液が流れさる爽美の感は、これをなにに譬えよう。いままでの苦しみも悩みも、貧の脅迫感もこの小さな洋盃二、三杯で、跡形もなく拭い去られた。

――白雲飛び去り、青山ありだ――

ああ、甘露かんろ。だが、もう一杯ぐらいは二円あまりの金に対して大した影響はないであろう。